1940年代から1950年代にかけて、フランスで生み出されたフレーム・フランス。これまでジャーナルでも紹介してきたように、フレンチアーネルとも称される定番中の定番”パリジャン”や、特に目をひくデザインで知られる”avant-garde(アヴァン・ギャルド)”など、当時のフランスの空気感を現代に伝える幅広いバリエーションが存在しています。
そんな様々なモデルがある中で、今回ご紹介するのは特にスペシャルなクラウンパントとパント。
舟を漕ぐ櫂に似たことから名付けられた”パドル・テンプル”と、フレーム・フランスに用いられる生地の王様と言っても過言ではない8mm厚のセルロイド。これら2つの圧倒的に存在感のある特徴を持った、他に代え難い説得力の2本です。
8mm厚のフロントは少しでも斜めから見たときにその存在感があらわになります。もはや馴染みのあるシェイプの一つとなったクラウンパント/パントですが、生地の厚みが違うだけでその印象は大きく異なります。
先にいくにつれて一気に幅が広くなるパドル・テンプルは、フレーム・フランスの中でもアヴァン・ギャルドと組み合わされることの多いデザインです。
通常のテンプルとは違い上下方向には曲げずに、一直線に頭に沿わせるようにしてフィッティングをします。そのためテンプル自体の幅の広さも相まって、横から見たときに他にはない存在感があり、個人的にもとても好きな見た目です。
そんなパドル・テンプルが、かける人を選ぶアヴァン・ギャルドにではなく、より多くの人に馴染みやすいクラウンパント/パントについていること、それ自体が非常に珍しいことです。
さらに今回の2本には、非常に分厚い8mmのセルロイド生地がフロントに用いられています。当時ならではの比較的コンパクトなフロントと8mmの生地との組み合わせは、他にない独特の凝縮感を生みます。
しかしあくまでクラウンパント/パントであり、またフロントの角が丁寧に丸められていることで、説得力こそあれど威圧感や奇をてらった印象は全くありません。
素材はもちろんセルロイド。ただでさえ豊かなツヤを持つ素材ですが、生地に厚みと面積がある分、より深みのあるテクスチャに感じられます。
テンプルとフロントをつなぐ置き蝶番もフレーム・フランスならでは。フロント側の丸い台座なども、現代の眼鏡にはあまり見られないディテールです。
パドル・テンプルと8mm厚のセルロイド生地、これらはいずれも他に代え難い存在感を持ちますが、何よりもそれがクラウンパント/パントと組み合わせられていること、これが今回ご紹介した2本ならではの特徴です。
多くの人に馴染みやすいクラウンパント/パントであると同時に、フレーム・フランスらしい物自体の説得力を楽しめるのは、きっと多くの人にとって願ってもないことではないでしょうか。
サルトルやブルトンなど、眼鏡姿がアイコンとなっている知識人がフランスには少なくありません。その理由のひとつには、当時フランスで生産されていた眼鏡自体の圧倒的な存在感があるに違いありません。
一度手に取ってかけてみると、きっと同じくそう確信していただけると思います。それほどまでに他とは違う2本なのです。