Interview

All about 10 eyevan
Part 2

10 eyevanは”美しい道具”というコンセプトのもと、美観と機能性を共に追求しているブランドです。数々の特別なパーツの持つ機能性に始まりながら、審美性や芸術性も重視するそのアプローチは、ブランドロゴにも表現されています

まっすぐなIの文字とまん丸なOの文字からデザインされた10 eyevanのロゴ。これらの直線と曲線は簡単には文字列に馴染まず、子供や言葉の通じない人が見ても感じることができる記号的な印象を通して、相反するものが一つになっていることを表現しています。

EYEVAN 7285 Tokyoで店長をしていた当時、10 eyevanのデザイナー中川さんの一番近くにいたからこそ知り得た背景をお伝えする『All about 10 eyevan』。第2回目の今回は、そんな10 eyevanのロゴが刻印されたリムのお話からです。


— チタンリム

眼鏡におけるリムはレンズを支える上で非常に重要なパーツです。そんなリムの素材となるリム線を製作するのも、やはり職人丸山さん。チタン製のトルクスネジの開発を可能としてくれた、キャリア40年のベテランです。

丸山さんと10 eyevanのデザイナー中川さんが出会ったきっかけは、ネジを製作する会社の人からの紹介だったそうです。最初に紹介されたとき「丸山さんはとにかくいい人だ」と聞かされたそうで、それは物作りとはまた別の話ではないのかと訝しみつつも、実際にリム線を見せてもらうと確かにすごく綺麗だった。やはり良い人は良いものを作るのだということで、リム線の製作を依頼することになりました

— 歪みのないリム線

良いリム線は歪みがありません。10 eyevanのレンズシェイプには絶妙な曲線を描くものが多くありますが、丸山さんの製作するリム線であれば、そういった形も歪みなく綺麗に表現することができます。

さらに丸山さんのリム線は表面が非常に綺麗に整っていることも特徴で、これはメッキが綺麗に仕上がることにもつながります。「何か特別なメッキを施しているのか」とは同業者からもよく聞かれますが、特別なメッキではなくベースとなるリム線が特別である、これがその答えになります。


— 玉型

そんな特別なリムに収まる玉型もまた特別です。10 eyevanでは数年かけて少しずつ玉型を増やしていますが、それでも8種類しかありません。これは通常のブランドだとワンシーズンで出してしまう数です。

しかしそれら8種類の玉型はいずれも、一見すると普通でありながらよく見ると何にも似ていない、時代感の見えない独特の形です。これはデザイナーの中川さんの特徴で、良い意味での気だるさ、格好をつけ過ぎていない雰囲気が現れています。あるいは、やりきらずにその少し手前で止めているようなと言ってもいいかもしれません。

これはボストンやウェリントンといった定番の玉型が生まれる以前、眼鏡のデザインがその過渡期にある時代のヴィンテージの雰囲気にもよく似ています

— 見る人が見ればそうと分かる

これについて、デザイナー自身はデザインが上手くないだけだと言います。例えば10 eyevanの中ではラウンドに位置付けられるno5の玉型は、イラストレーターで描いた真円がどうしても歪んで見えるため、後から自分の手で修正してしまう結果として独特の形になっていると。

しかし本人がなんと言おうとも、たとえば10 eyevanのセルフレームを製作する会社の人も言うように、こういった独特の玉型で勝負をするデザイナーは他にいません。見る人が見ればすぐにそうと分かる、10 eyevanならではの玉型です。


— βチタン製テンプル

縦方向が1mm、横方向が0.9mmとやや縦長の断面になっている10 eyevanのテンプルは、横方向への柔軟性を持ちながら縦方向への変形には強いという理想的な設計になっています。

実際に店頭に立ってお客様に販売する立場として、こんなに癖のあるテンプルはそうそうありません。しかしフィッティングの十分な技術があれば、一度調整しきってしまうとユーザーが使う上で動くべき方向には動き、動くべきではない方向には動かない、非常に信頼性の高いテンプルです


— Silver 925/K18YG製バランサーチップ

そしてそのテンプルの先に装着されるのが、テンプルの素材であるチタンと比べてより重いシルバー925または18金のエンドチップです。フレーム全体としての重心をより後方にすることで鼻への負担を軽減する設計は、18世紀頃の眼鏡に見られた構造に着想を得ました。

道具としての過不足のない機能性とコンパクトで美しいフォルムを両立した、10 eyevanらしいディテールのひとつです。


— テンプル芯

10 eyevanのセルフレームにはヴィンテージのセルロイド生地が用いられていますが、テンプルはいわゆる芯なしではありません。

それどころかテンプルに用いられる芯は、半円の断面を持つだけでなく、フラットな側には10 eyevanのロゴをモチーフにした模様が凸状に入った非常に手の込んだデザインをしています。

デザイナーの中川さんはヴィンテージの価値を認めながらも、ヴィンテージの代わりに選ばれるようなものではなく、一緒に並んだときにどちらにするか迷うようなものを作らなければお客様にも失礼だと考えていました。

その考え方はテンプルの仕様においても同様です。単にヴィンテージへの憧憬だけでデザインするのではなく、芯が入っていて良いもの、そうしたアプローチが形になったのがこのテンプル芯です。

単にデコラティブなすごさではなく、ほとんど無に近い外観でありながら製作には高度な技術が必要とされるデザインです。


10 eyevanというブランドは、改めて振り返ってみると実験的で大胆なアプローチも多く、全体としてひとつの形に仕上がったのはある意味では奇跡のバランスと言えるかもしれません。

しかし現在では、日本はもとより海外のマーケットでの人気も高く、同じモデルの色違いを複数本買っていただくような熱心なファンも少なくありません。

それは目に見えて分かりやすい特徴はなくとも、玉型・素材・設計を全く妥協せずに追求しているというブランドの姿勢によるものだと言って間違いありません。

実際にかけ心地も申し分なく、あらゆるディテールが完成されており、しかしどこか抜けた印象もある。眼鏡が本当に好きな人からすると、他に浮気のしようのない唯一の存在ではないでしょうか。

牧野弘生

2011年 株式会社アイヴァンリテーリング入社
2012年 EYEVAN大阪ギャラリー&EYEVANバーニーズニューヨーク神戸店 店長
2016年 Oliver Peolples大阪 店長
2017年 EYEVAN 7285 Tokyo 店長 EYEVAN 7285 & 10 eyevanの数多くのFlagship・別注を手掛ける。
2023年 独立、AFTERをオープン

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