2000年代初頭、ちょうど僕がこの業界に入ったときに流行していたSPIVVY(スピビー)という眼鏡ブランドがありました。バキバキに立ったエッジが目をひくフレームはまさに一時代を築いたと言えますが、あのようにエッジの立ったフレームは必ずしも一般的なものではありません。その理由は「ガラ入れ」と呼ばれる磨きの工程です。円筒状のバレルの中でさまざまな素材のチップや研磨剤とともにフレームを撹拌するこの工程で、フレームのエッジがある程度まで丸まってしまうのが普通だからです。
しかし今回ご紹介するEYEVAN 7285の349は、その普通ではないエッジがしっかりと表現された、EYEVAN 7285のコレクションの中でもやや異色のモデルです。ガラ入れを最小限に抑え、通常の5倍以上の時間をかけてひとつひとつ職人の手作業で研磨されたフレームは、現代の眼鏡としては違和感を感じるほどの鋭いエッジを持っています。
その生産には高い技術と膨大な手間が必要となるため、今回EYEVANではこのフレームの生産のために新たな工場を探し出しました。さらに一度に生産できる本数も通常より大幅に少なく、それさえも複数回に分けて納品されるというイレギュラーな状況で、ようやくAFTERにも入荷してきた次第です。
最大の特徴はこのシャープなエッジ。現代的な生産の仕方ではまず生まれない、ブランドの徹底的なこだわりと、いかなる制限も設けないという挑戦的な姿勢を感じられるディテールです。
そして今回、特におすすめしたいのがマットフィニッシュのモデルです。ただでさえ手間のかかるフレームにさらに吹き付け加工を施したテクスチャは、非常に均質で、シャープなエッジとともにフロントのフラットな印象をより強調しています。またその均質さゆえに、一見すると廉価な樹脂製のサングラスのような、簡素でチープな印象でさえあります。
しかしそのカジュアルで気負いのない印象とは裏腹に、丁寧かつ徹底的に磨き込まれたフレームの内側を見ると、これがただの眼鏡でないことを一目で思い出させられます。
EYEVAN7285の眼鏡はフレームの内側、つまり日々眼鏡を手に取ってかける瞬間にのみ注意を向ける箇所にこそ凄みのあるディテールを配していることが多々あります。今回ご紹介の349もその例外ではなく、決して主張をしすぎない、しかし妥協のない作り込みを楽しめる一本の仕上がっています。
(上)ポリッシュとマットの2種類からなるフレームはどちらも非常に丁寧に仕上げられており、好みに合わせて選ぶ楽しみを与えてくれます。
(下)正面から見たときのある意味ではそっけないとも言える印象とはまるで対照的な、豊かな艶をたたえたフレーム内側は、手に取ってかける人だけが知るこだわりです。
他にないシャープなエッジという最大の特徴を表現する中でも、EYVAN7285らしさが決して失われていないのはさすがの一言です。
どこか気だるさを感じる独特の玉型は、見る人が見ればすぐにそうと分かる、まさにEYEVAN7285ならではの特徴のひとつです。
さらに一本のピンのみで固定されるシンプルな構造の蝶番は、本来はヴィンテージの鼈甲のフレームに見られるもの。今回はそれを10金製のピンで表現することで、蝶番はあくまで控えめな引き立て役に回りながらも、全てのディテールがやはり特別にあつらえたものであることを静かに主張しています。
現在店頭ではサングラスが全色入荷しており、追って眼鏡フレームも全色入ってくる予定です。このモデルは企画段階で見たときから本当にかっこいいと思っていたため、全色を買い付けました。ぜひ来店予約の上ご来店いただき、店実際に手に取ってお試しください。