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IWC Mark ⅩII “AUTOMATIC”

1994年、世界最大の時計の見本市バーゼルワールドで発表されたIWC Mark ⅩII。軍用品として英国空軍(RAF)のために設計・納入されていたMark ⅩIの系譜を引き継ぐ形で民生品として開発されたマークシリーズは、その後現在にいたるまでIWCの代名詞として、また高級時計の入門機として確かな人気であり続けています。

しかしその前年の1993年、バーゼルでの発表を待っているはずのMark ⅩIIが日本市場ではすでに販売されていました。それが今回ご案内するIWC Mark ⅩII “AUTOMATIC”、ごく限られた期間にのみ販売された知る人ぞ知るモデルです。

最大の特徴は6時位置にプリントされた”AUTOMATIC”の表記。12時位置のブランドネームと全く同じフォントが用いられており、シリーズ黎明期に独特の、仕様の決定にあたって試行錯誤をしていた様子がうかがいしれます。

また内部のムーブメントも94年に正式に発表されて以降のモデルとは異なっており、通常では36石のムーブメントが34石になっています。それぞれ34石のものがCal. 884、36石のものがCal. 884-2と名付けられていることからも、正式な発表を前にサイレントでリリースされた、メーカーとしても明確な位置付けのあったモデルであることが分かります。

IWCらしい質実剛健で直線的なデザインは、RolexやCartierなどとはまた違う、飾り気のないコンサバティブな印象です。純正の11連ミラネーゼブレスレットの他にも、NATOストラップや革ベルトなど、幅広い楽しみ方をできると言って間違いありません。

正式な発表の前にサイレントでリリースされていたという希少性の他にも、数多くの魅力的なディテールを持っています。

Mark ⅩII以降のマークシーズに搭載されているのはほとんどがETA製の汎用ムーブメントですが、Mark ⅩIIにはジャガールクルト製のムーブメントが搭載されています。Cartierなど数多くのブランドに選ばれた実績のあるジャガールクルトのムーブメントを積んでいるという点は、ゼニスのムーブメントを積んだRolexのRef.16520などにも通ずる、機械好きの人にも刺さる特徴ではないでしょうか。あのIWCがわざわざルクルトのムーブを採用しているという、そのダブルネームを評価するコレクターは少なくありません。

また綺麗なクリーム色に焼けた夜光のトリチウムや、リューズに施された耐水を意味する魚のマークなど、メーカーでオーバーホールに出すと交換されてしまうパーツが全てオリジナルで残っていることも高く評価できます。

(上)トリチウムが使用されていることを示すTの表記が文字盤に。シャキッとしきらない、愛嬌のある数字のフォントも特徴。
(下)防水性能があることを示す魚のマークだが、メーカーでオーバーホールに出すと現行基準の防水性を備えたリューズに交換されてしまう。

それだけでなく、軍用時計としてのルーツを感じられる高い防水性・耐磁性など、ヴィンテージの時計としては実はあまり一般的ではない機能性の高さも見逃せません。

知れば知るほど良い意味での違和感が随所に見られ、ヴィンテージの魅力を確かな機能性の中で楽しむことができるMark ⅩII “AUTOMATIC”。36mmという手首への収まりの良さもあり、日常的に着用して長く付き合うことのできる一本です。他にはない高い信頼性と、一癖も二癖もあるディテールのバランスを楽しんでいただければと思っています。

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