海外では特に高く評価され、探しているコレクターも多いゴーストダイヤル。光の反射する角度によってダイヤルの文字が背景に沈むようにして見えなくなる通称”Ghost(幽霊)”は、60年代の半ばから70年代の初めにかけて製造されたごく一部のダイヤルにしか見られません。一見すると地味とも言える点がかえって玄人好みする根強い人気のディテールですが、数も少なく、探してもなかなか出てくるものではありません。
今回の一本はデイトジャスト、それもスムースベゼルのRef.1600です。16XXのデイトジャストといえばまずはフルーテッドベゼルのRef.1601が定番ですが、それとは違いより控えめな見た目が印象のリファレンスです。
ただでさえ控えめなスムースベゼルに、ROLEXのレターが消えることでさらに押し出しが弱くなるため、見る角度によっては本当に何の時計をしているのか分からなくなりさえします。
ゴーストには、中心から周囲に向かって細かい線が伸びているテクスチャのサンバーストダイヤルと、全体が均一なマットテクスチャのスムースダイヤルが存在します。スムースダイヤルの方が数が少なくレターもより綺麗に見えなくなることから、マニアの中ではより好まれる傾向にあります。もちろんこの一本もスムースダイヤルです。
本当にシンプルで派手さのないモデルである分、気になるのはコンディションです。ゴーストダイヤルは探している人が多いため、多少ぐずついたものであっても特に問題とせず出回ることもあります。
しかしぱっと見では分からない絶妙なディテールを楽しむためには、やはりできる限り完璧に近いコンディションであるに越したことはありません。今回のダイヤルはもちろん抜群のコンディションで、夜光落ちやダイヤルの腐食も見られません。
風防はダイヤルがさらに良く見えるように、サイクロップレンズなしのドーム風防に交換しています。サイクロップレンズがないことでよりミニマムな印象になり、スポーツモデルに近い感覚で気負わず身につけることができるようになります。さらにブレスを交換して、さらにスポーツっぽく楽しんでもいいかもしれません。
サイクロップレンズ無しのドーム風防にすることで、デイトジャストには珍しいスムースベゼルも相まって徹底的にミニマムな印象に仕上がります。またそのシンプルな中に、文字盤のグレー、ケースのSS、黄色がかった夜光塗料などの少しずつ違った同系色が配置されることで、見れば見るほど引き込まれる奥行きの深さが出ています。
夜光塗料やインデックスなど、視認性を良くするために試行錯誤をするというのがROLEXの基本姿勢のはずです。しかしなぜか文字盤と同系色の白でレターが印字されているGhostは、今のROLEXはまず絶対にやらないアプローチと言って間違いありません。
そもそもフルーテッドベゼルではないデイトジャストというだけで少なからず目を引くところに、抜群のコンディションの、しかもスムースのゴーストダイヤルというなんともスペシャルな仕様の一本。これまで日本ではあまり注目されてこなかったゴーストダイヤルですが、ドレス系の時計が再評価される近年の流れの中、より評価されやすくなるのではないかと思っています。
ありきたりの物では満足できない、なんでもよくはない方にこそ選んでいただきたい一本です。