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Rolex

Explorer for Canadian Market, Ref.6298

今日では時計という枠を超えて、言わば卓越性そのものの象徴となったROLEX。しかしそのイメージは必ずしもブランド創業当初からのものではなく、ROLEXのヒストリーについての著書『The making of a status symbol: A business history of Rolex』のあるPierre-Yves Donzéも指摘するように、1960年代に米国流のマーケティング手法を採用するようになったことが今日まで続くブランドイメージのきっかけであったと言われています。

1960年以前、優れた品質の時計を生産する能力は獲得しつつもブランディングの面ではまだまだであった当時のROLEXから生まれた一本、それが本日ご紹介するRef.6298 Canadian Explorerです。

北米市場向けに様々なバリエーションで展開されたCanadian Explorer。白系の文字盤にアルファ針、青焼きの秒針など、通常のExplorerでは見られないドレス系のディテールも特徴のひとつ。

1953年に誕生し、世界初のエベレスト登頂にも用いられたとされるExplorerですが、その黎明期は実に混沌としています。

現在のように同じモデルの全てのダイアルにExplorerの文字が入るようになったのは、世界初のエベレスト登頂と同じ年に発表されたRef.6350から。その前身モデルにあたるRef.6150や今回のRef.6298のように、必ずしもExplorerの文字がダイアルに入らない通称プレ・エクスプローラーと呼ばれるモデルがいくつか存在しており、実際に世界初のエベレスト登頂で着用されたモデルはそれらのいずれかだと思われていました。

しかし近年、当時のエベレスト登頂に同行していたカメラマンが撮影していた写真が元となり実際に着用されていた時計がバブルバックであったことが特定されます。

このエピソードからも分かるように、現在のような巧みなマーケティング戦略を持つ以前のROLEXはある意味で行き当たりばったりで、一貫したイメージのもとで製品を世に出すというよりは、より多くの手数を試していたように映ります。

裏蓋に刻まれたオリジナルの所有者によるエングレービングは、この時計が確かにカナダで販売、所有されたものであることを示しています。

自社製品が世界初のエベレスト登頂にも用いられたという事実と、Explorerの商標とを獲得したROLEXが、それらを元に特定のリージョン向けに展開したマーケティングモデル。主に知られているのが英国向けのボーイズ・エクスプローラーと、このRef.6298をはじめとした北米向けのカナディアン・エクスプローラーです。

特に後者は、豊富なバリエーションとExplorerらしからぬ洗練されたダイアルで知られています。中でも今回の個体は、インデックスの内側に配置されたミニッツサークルと、それとマッチした短い秒針が目をひく、非常に珍しいダイアルが特徴。もちろん針やリューズもオリジナルのままで、比較的クリーンなコンディションも含めて他にない満足感があります。

しかしなによりの魅力は、ダイアルのExplorerの文字で間違いないでしょう。マーケティングのために入れられたはずの単なるExplorerの文字は、数十年の時と、その間に積み上げられた3・6・9のイメージと結びついて、今あらためて強烈なギャップと歴史の厚みを感じさせます。

ヴィンテージ・ロレックスの魅力の詰まった一本です。

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