1970年代、パテックフィリップのノーチラスやオーデマ・ピゲのロイヤルオークに代表されるラグジュアリースポーツと呼ばれるジャンルが一世を風靡します。
そんな中でCartierが発表したのが、ノーチラスやロイヤルオークと同じステンレスのブレスレットを持ったサントスでした。
当時すでにCartierのヘリテージとなっていたサントス・デュモンをスポーティーに解釈した一本は、現在に至るまで続くサントスの系譜の中でも特に重要な位置付けにあると言って間違いありません。
今回ご紹介するのは、そんなサントスの後継モデルとして誕生したサントス・ガルべ。Cartierの他のモデルと同様、一般的にはホワイトローマンダイヤルで知られているサントス・ガルべですが、ごく限られた期間にのみ生産されたグレーダイヤルのモデルが一部に存在しています。
“Cartier”と”SWISS”が表記されるのみでインデックスが一切プリントされていないダイヤルは、一見するとあまりにシンプルで、とてもCartierの腕時計とは思えないほどの印象かもしれません。しかしこれまでは見向きもされていなかったようなこのモデルが、まさに今の時代感にマッチしているとして注目されるようになっているのです。
(上)光の加減でCartierの表記がダイヤルに溶けたように見えなくなってしまう、通称”Ghost(ゴースト)”ダイヤル。
(下)オリジナルのままのブレスレットは、バックル部分にCartierのマークがついたよりクラシックな仕様になっています。
今回の2本、一本目はK18YGとSSのコンビであるRef.2961です。今ではごく一般的になったK18YGとSSのコンビというスタイリングも、元をたどれば1978年に発表されたサントスによって世にもたらされ、80年代にかけて流行したもの。
そんなサントスの後継モデルであるサントス・ガルべにおいても、やはりコンビのスタイリングは非常によく合います。また特にこの個体は、本来グレーであるはずのダイヤルがややトープ色に経年変化していることで、K18YGとSSの素材がよりよく馴染んでいることも特徴でしょう。
さらにそのコンビのモデルよりもはるかに数が少ないのが二本目のRef. 2960。ただでさえ簡素なグレーダイヤルですが、時計本体がオールステンレスであることで、その印象がこれ以上ないほどに強調されています。
いずれもムーブメントは自動巻き、サイズは当時のLMサイズです。現行のCartierにはない節度を保ったサイズは、時計本体の控えめな印象とも非常にマッチしており、男性はもちろん女性が着けても違和感のないボリュームです。
(上)コンビのモデルと比べても、よりストイックな印象のオールステンレスのモデル。
(下)ますます入手がしづらくなる中、先日の香港への買い付けで運良く手に入った2本。
時計というよりはむしろブレスレットと言っても違和感のないその控えめな印象は、一般的に腕時計に期待されるものとはやや異なっているのかもしれません。実際デザインが簡素なあまり、Caritierの製品であることはリューズのサファイヤカボションを見て初めてわかるほどです。
しかしその押しの強くないデザインこそが今の時代感に合っているということも、多くの人にとって理解できることではないでしょうか。
これ見よがしでなく、男性的とも女性的ともつかない、身に着けている人の人格自体が問われる、まさに今の時代に求められるラグジュアリー。
AFTERでご紹介してきた他の時計と同様に、時計だけが前面に出るのではなく、それを身に着ける人のスタイルに馴染み、より魅力を引き出すような一本です。