前回ご紹介したRef.1016に引き続き、今回ご紹介するのもトロピカルダイヤル。独特の雰囲気をまとった62年製のRef.1601です。
針はオリジナルのドルフィンハンド。50年代後半から60年代前半の限られた時期にのみ見られたシャープな菱形の針がついており、60年代半ば以降のストレートの針と比べると明らかに引き締まった印象を感じます。
そして6時位置にはシングルスイスの表記は、トリチウムの表記が義務になる以前の個体にのみ見られるディテールです。
またわかりにくい部分ではありますが、ベゼルも刻みの細かいオリジナルのままです。こういった細かいディテールの積み重ねが、全体として見たときの小さくとも明らかな印象の違いにつながります。
そしてなにより、他にない抜群の雰囲気のトロピカルダイヤル。ツヤはしっかりと残っているものの、確かに灼け自体は多少のムラもあり、言ってしまえば完璧ではありません。
しかし、一段下がった外周に沿って特に色が飛んでいる様子や、左手のカフからダイヤルを覗かせていたことがうかがい知れる偏った灼けには、単にスペックやコンディションの話だけではない価値を見出せるのではないでしょうか。
前回ご紹介したRef.1016は、いわばトロピカルの王様。デイトナにも匹敵する王道中の王道な顔つきの一本でした。
一方で今回のRef.1601は、それとはまた違った魅力を持っています。ベースはドレスモデルで、ドルフィンハンドにシングルスイスといった間違いのないディテールを持った、いかにもヴィンテージらしい一本。
そんな一本がこの抜群の雰囲気のトロピカルダイヤルを持っているという独特なバランスは、色はしっかりと残りながらもシャープなヒゲを持つヴィンテージのLevisにも通ずるところがあるかもしれません。
スペックやコンディションといった、分かりやすく価格にも反映されやすいディテールと、雰囲気としか言いようがないながらも誰もが目を惹かれるような経年変化。時計を単に時計としてだけではなく、普段のファッションに合わせるものとして提案をするAFTERとしては、ぜひ後者の価値も積極的に提案したいと思っています。
よりシャープで繊細なディテールのドレスウォッチだからこそ、カジュアルな日常着に合わせてそのコントラストを楽しんでいただきたい一本です。
トロピカルを選ぶとき、王道中の王道のスポーツモデルではなく、少し外した、しかし確かなディテールを持つドレスモデルを選べる余裕と妥協のなさは、これまで見てきたものの幅の広さを静かに主張しているように思います。