All about 10 eyevan
Part 1

Mar 27

EYEVAN 7285とならびAFTERで取り扱う10 eyevan。スペシャルな数々のパーツから始まったブランドは、全体としては過度なデザインを避けながらも、玉型のフォルムやパーツ同士の自然な調和を突き詰めることで、スマートでモダンなコレクションに仕上がっています。

眼鏡そのものが主張するのではなく、眼鏡をかける人の内面的な魅力を引き出すような唯一の眼鏡。その魅力と細部へのこだわりを、全2回に分けてジャーナルでご紹介します。

今回は第一回。ブランドが生まれたきっかけからトルクスネジ、職人丸山さん、蝶番、シェルパッド・シェル型ヒンジまで。

EYEVAN 7285 Tokyoで店長をしていた当時、10 eyevanのデザイナー中川さんの一番近くにいたからこそ知り得た背景をお伝えします。


— ブランドが生まれたきっかけ

10eyevanは2017年に始まった比較的新しいブランドです。ブランドが生まれたきっかけは、過去にEYEVAN社で取り組んできた製品にありました。

これまで様々な製品を企画する中で、すごく魅力的なパーツ、何も言わずに使ってしまうにはあまりにもったいないパーツに出会う機会が少なからずあったと、10 eyevanのデザイナーの中川さんは言っています。「実はこういったものがある」というような、決して目立たずとも名脇役となるようなパーツです

— トルクスネジやシェルパッドも

中川さんいわく、眼鏡業界の大先輩のような人たちが何気なく漏らした一言やアイデアが忘れられず、それらが自然に溜まっていったそうです。

たとえば天然の貝を用いたシェルパッドなどは「こういうのがあれば余計なことをしなくていいからね」と、初期のEYEVANに携わっていた方から紹介されたと聞いています。

確かにそうしたしっかりとしたディテールがあれば、きちんと作るだけですごく良いものができる。むしろデザインをしすぎない方がいいのではないかと。

— パーツのために生まれたブランド

しかし当時すでに展開していたブランドでそれらのパーツを使ってしまうと、そのこだわりにたどり着いてくれる人がおらず、パーツの本当の魅力を知ってもらう機会がなくなってしまう。そこで新しく始まったブランドが10eyevanです。

ひとつのパーツが決まると「次はあのときのパーツを引き合わせてみるとどうだろう」「このパーツは新しく設計してみては」と、こうして徐々に一つの眼鏡の形になっていきました。

— 系譜のない稀有な存在

今ある眼鏡のブランドには往々にして系譜のようなものがあります。例えばEYEVAN 7285は、オリバーピープルズのようなコンサバティブな見せ方の中に、ほんの少しだけモードのエッセンスが入っているような雰囲気があります。自由やロック、そういう言葉が似合うかもしれません。

でも10eyevanならなんだろうと考えると、思い当たる形容が全く見当たりません。眼鏡に限らず洋服や靴に探そうとしても、やはり見つからない。そういう意味でもおもしろい、系譜の見えない珍しいブランドだと思います。


— βチタン製トルクスネジ

純粋に美しいと思えるデザインと機能を具現化した10eyevanは、この一本のネジから生まれたブランドです。

トルクスはネジの中でもっとも優れているとされる形です。デザイナーの中川さんはかつて機械航空業界に身を置いていたこともあり、そのことはもちろん知っていました。

しかし眼鏡で使うネジはとても小さいため、加工性のよいステンレスを素材にすることがほとんどです。それをそのままトルクスにすると、締まりが強すぎてネジの頭がねじれて飛んでしまいます。

その素材を一から見直し、眼鏡用のサイズとしては初めてβチタンを使用したトルクスネジを開発しました。素材がβチタンであることを伝えると、眼鏡に関わっている人であれば「絶対に嘘だ」とまで言います。実際にとある業界の重鎮もそう言いました。βチタンでトルクスは絶対にありえない、それが常識だったわけです。

— 職人丸山さん

その不可能を可能にしてくれたのが、キャリア40年の職人である丸山さんです。ネジを作る際には長い針金のような丸線を用意しますが、従来はβチタンではコンマ何ミリの精度を出すことができませんでした。しかし丸山さんが全く新しく精度の高いβチタン線を用意してくれたことで、βチタン製の眼鏡用トルクスネジの開発が可能になりました。

さらにネジが緩みにくくなるOSロックという機構もついており、これも丸山さんの勤めている会社の特許です。眼鏡に用いられるネジとしてはこれ以上ないくらい完璧と言えるでしょう


— チタン製蝶番

蝶番はチタン製で、切削とプレスによって製作しています。チタンは加工が難しい一方で、丁寧に加工することで精度の高いパーツを作ることができる素材です。

眼鏡の蝶番が開いたり閉じたりする動き、これを“あがき”というのですが、眼鏡業界にいると眼鏡の良し悪しをこの“あがき”によって判断します。精度の高いチタン製のパーツを使うことで、この動きがとてもスムーズになります。

βチタン製のトルクスネジの特性を最大限に活かす上で、欠かすことのできないパーツです。


— シェルパッド

天然の貝を使用したシェルパッドの開発にあたっては、70年代のEYEVANに携わっていた方への相談がありました。とても古いヴィンテージのアイウェアで貝の鼻パッドを見たことがある、それができないかと。

そうして紹介してもらったのが、世界有数の貝ボタン生産地である奈良県の老舗工場でした。彼は業界が長いだけあって知り合いが多く、その縁に助けられました。

しかし一般的に平面的なものが多い貝ボタンに対して、鼻に直接あたる鼻パッドは曲面になっていないといけません。そのため奈良の工場から買い付けてきた貝のパーツを福井の工場で丸く磨き、そこにヒンジをつけるまでの工程を経ることが必要でした。これらの加工も全て、奈良の工場を紹介してくれたその方のお世話になっています。

— シェル型ヒンジ

丸く磨かれたシェルパッドに装着されるのが、貝をひらくような形状のシェル型ヒンジです。とにかくガタつかずにしっかりと固定できて、外したい時は容易に外せるような、そういう理想的な設計を追求しています。

それまで業界では、新しい鼻パッドが出てくることは全くありませんでした。しかしどのブランドも汎用的な取り付け方しか採用しないなか、「本当にそれがベストなのかという疑問がずっとあった」とデザイナーの中川さんは言っています。

過去の眼鏡史に存在しない画期的な取り付け方法は、特許も取得しています。(特許第6039851号)


次回第二回は、チタン製のリムやこだわりの玉型、デッドストックのセルロイドから10 eyevanのロゴの意味までを詳細にご紹介します。

牧野弘生

2011年 株式会社アイヴァンリテーリング入社
2012年 EYEVAN大阪ギャラリー&EYEVANバーニーズニューヨーク神戸店 店長
2016年 Oliver Peolples大阪 店長
2017年 EYEVAN 7285 Tokyo 店長 EYEVAN 7285 & 10 eyevanの数多くのFlagship・別注を手掛ける。
2023年 独立、AFTERをオープン