Parisian

Feb 22

アメリカン・ヴィンテージにおけるアーネルのように、フレンチ・ヴィンテージの世界にも定番とされる形があります。それが今回ご紹介する”パリジャン”、フレンチアーネルとも称される定番中の定番ながら、現在では入手すること自体がとても難しくなってしまったモデルです。

ウェリントンやボストンといった、現在ではよく知られているシェイプが生まれる以前から存在したパリジャン。強いて言えば現代のウェリントンと似た印象はある一方で、ウェリントンがスクエアな形であるのとは対照的に、パリジャンは角がより丸くどんな顔にも違和感なく馴染む、懐の広さのある独特のシェイプです。

これらのフレームは、いずれも1940年代から1950年代にフランスのジュラ地方で製作されたもの。それぞれが現地の小規模な工房で製作されたため、少しずつディテールに差がありながら、全体としては確かにひとつの型に収まっています。

どのようにしてこの形が生まれ、どのようにして広まっていったのか。そういった経緯に謎が多いのも、このモデルの魅力をむしろ高めているのではないでしょうか。

(上)小ぶりなサイズが多いフレンチ・ヴィンテージですが、AFTERでは上の2本のように大きなサイズのものもラインナップしています。
(下)スクエアともラウンドともつかない独特のレンズシェイプ。このシェイプならではの顔馴染みの良さが、パリジャンが定番モデルたる所以。

今となってはパリジャンのディテールを復刻した眼鏡も存在していますが、やはり本物のヴィンテージでなければ出せないディテールや雰囲気は確かに存在します。

まずは素材に用いられているセルロイド。当時のセルロイドならではの鮮やかな発色や豊かな艶は、現在の素材ではなかなか再現できるものではありません。特に黒と黄色がまさに鼈甲のように混ざり合ったYellow Turtoiseカラーなどは、一目でそれと分かるヴィンテージでしか見られない発色です。

さらに角がしっかりと立った蝶番を、フレームの生地に埋め込むことなく設置した”置き蝶番”もフレンチ・ヴィンテージの特徴です。金属製のピンをフレームの生地に貫通させることで蝶番をしっかりと固定し、さらにそのピンの頭はフラットに削って均されています。

(上)1940年代に製作されたものにはテンプルに芯が入っておらず、特に希少とされています。まるで本物の鼈甲のようなTurtoiseカラーと合わせて、一目でヴィンテージと分かる一本。
(下)荒々しい素材感の残った置き蝶番は、フレンチ・ヴィンテージに共通の特徴のひとつ。

眼鏡のデザインについて考えたとき、それらは100年近く前に既に完成されていたことに気付かされます。山型にカーブしたブリッジやキーホールなどは、現在の眼鏡でも当然に見られるディテールでしょう。

そういった眼鏡の原型が生み出された当時、まだ高度な加工機械は存在していなかったため、ほとんど全ての工程が文字通りのハンドメイドでした。

フロントの柔らかなカーブや、厚みとエッジの残った蝶番などから否応なく感じられる独特の雰囲気は、当時のハンドメイドからしか生み出されません。

そんなヴィンテージの中でもパリジャンは顔馴染みがよく、特に着けやすい定番中の定番です。ここ10年ほどで入手すること自体がとても難しくなってしまいましたが、それには相応の理由があることが、実際に手に取っていただければ分かると信じています。

ぜひ店頭にてご覧ください。