The Oval for Today

Dec 31

ウェリントン、ボストン、クラウンパント…これらはここ10年ほどのあいだに、その時々の眼鏡のトレンドとして様々なブランドからリリースされた、今や誰もが知ると言っても過言ではないシェイプです。

いずれもアイコニックで個性の立ったシェイプで、改めて振り返ると当時の時代感を鮮明に思い出せるという方も少なくないと思います。

しかし今回ご提案する眼鏡は、それらとは少し趣向の違った一本。僕が眼鏡の業界に入った90年代から00年代頃に流行しながら、今ではなかなか見る機会がなくなってしまったオーバルシェイプです。

確かに現在、オーバルシェイプの眼鏡を積極的にリリースしているブランドはほとんどありません。

しかし今年に入って、とあるメゾンブランドが眼鏡専業ブランドとのコラボレーションでオーバルのモデルをリリースしているなど、EYEVAN 7285のデザイナーの中川が「次はオーバルだろう」と言うのも十分に頷ける話だと思います。

20年近くにわたってほとんど忘れられていたからこそ、今まさに注目に値するのではないか。そんなオーバルシェイプを持つEYEVAN 7285の197をご紹介します。

オーバルシェイプはサイズ感が難しく、レンズの縦幅が少しでも大きくなり過ぎると急にや野暮ったくなってしまいます。その絶妙なところをついた洗練された玉型は、40年代当時のレンズシェイプカタログから丁寧にサンプリングされたもの。その他多くのパーツを直線的にデザインすることで、全体としては非常にモダンな印象です。

一見するとシンプル過ぎるくらいの一本ですが、やはりそこはEYEVAN 7285です。手にした人には確実に伝わる、妥協のないこだわりが随所に見られます。

まずは蝶番部分。チタン製のテンプルを同じくチタン製のパーツでかしめるという、他ではまず見ることのない留め方をしています。テンプルに金属製のピンを貫通させ、それを裏側でかしめて留める手法は、セルフレームでは定番です。しかし、ロー付けという手法が一般的な金属製のフレームでこの留め方をすることはまずあり得ません。

それをあえてやることで、シンプルなメタルフレームが他にはない個性を持った唯一無二の一本に仕上がっています。

さらにテンプルがリムに接続するヨロイと呼ばれるパーツは、単に直角に曲げるのではなく、内側に凹ませるように一段下げて曲げる工夫が施されています。

このことで、正面から見た際に横方向への張り出しが抑えられるだけでなく、眼鏡を掛ける人ごとのフィッティングも格段にしやすくなっています。装飾品としての見た目のためだけではない、用の美とも言えるEYEVAN 7285らしいディテールのひとつです。

クラシックで洗練された眼鏡の印象に馴染むように、蝶番にはマイナスねじが採用されました。計4本のピンでかしめられた蝶番は、大胆なダメージ加工のようなメッキカラーの中でも確かな存在感があります。

AFTERで取り扱うカラーは全4種、その中には大胆なダメージ加工のような仕上げも含まれています。長年使い込むことで無数の傷が入ったかのようなテクスチャーを、最近のメッキによって実現しました。

かなりしっかりと傷が入っているような印象にも関わらず、実際に手で触れると完全に滑らかなテクスチャーに仕上がっています。さらにここまで加工を施していながら、蝶番やかしめの部分のパーツは確かな手仕事で綺麗に磨かれていることも特徴です。

これらの新鮮なコントラストからは、例えばメゾンブランドのヴィンテージ加工にも感じられるような洗練を感じられるのではないでしょうか。

世界観を過剰に演出するのではなく、むしろ半歩引くくらいの謙虚な仕上げが、着用する人自身のスタイルを静かに際立ててくれます。

オーバルシェイプの良いところは、なによりも人を選ばず似合うところだと思います。しかしだからこそ、玉型の絶妙なニュアンスや、精緻に作り込まれたディテールが違いにつながります。

それはまさに、決してことさらにアピールをするようなデザインではなくとも、手に取った人には確実に伝わるディテールを積み重ねることを旨とするEYEVAN 7285が得意とすることでしょう。

EYEVAN 7285では毎シーズン10型ほどが新作としてリリースされています。この197は、24SSの中でも特に異色でありながら、ネクストスタンダードになるポテンシャルも秘めている一本です。